老化と死を迎えるプログラム
老化とは何か
生物である以上、老化と死は避けられません。
不老長寿は昔からの人類の夢でした。だが、生物が年老いて死を迎えるプログラムは、生まれる前から遺伝子の中に書き込まれているのです。
ではなぜ、生命は有限なのか。なぜ死ななければならないのか?
そもそも老化とは何なのか?
大変興味深いテーマです。
ヒトに限らず生物は、世代交代を繰り返しながら、その時々の環境変化に対応しながら種の遺伝子をつないできました。世代交代するのは、一つの個体を長く生かすよりも、繁殖力旺盛な若い個体に順次引き継いで行ったほうが「種の保存」には有利だからです。
かくして生物は、生をつなぐために死ぬことを自ら選択しました。死ぬための前段階として「老化」があります。
老化とは、加齢にともない生存力や繁殖力が低下することです。
加齢にともなうこのような機能低下は、一般に生殖年齢に達したあとに始まります。ヒトの生殖年齢は20歳~30歳くらいですので、この頃からすでに老化が始まっていることになります。
老化のメカニズムについて、もう少し詳しく観てみましょう。
(画像:施術家養成塾)
老化のメカニズム
細胞分裂の回数には限りがある
私たちのからだは、60兆個の細胞で構成されています。これらの細胞は常に細胞分裂を繰り返し、傷ついたり古くなった細胞を捨てて新しい細胞と置き換えています。細胞分裂を繰り返すことで生体機能を正常な状態に維持しているのです。
ところが細胞生物学者のレナード・ヘイフリックは、1960年代初頭に、正常な細胞は50回程度までしか分裂できないことを突き止めました。この現象を「細胞老化」といい、ヒトの細胞でも酵母菌でも全く同じ現象が起きていたのです。
細胞老化がおきると、細胞はそれ以上分裂することができなくなります。その結果、生体機能を正常な状態に維持することが困難になり、ヒトとしての老化が始まるのです。
老化のカギを握るテロメア
老化のカギを握るのはテロメアの長さ
ヒトの細胞は50回を超えて細胞分裂することはできません。その細胞老化のカギを握っているのは、染色体の末端部にある「テロメア(telomere)」という構造です(図で赤く表示された部分)。
テロメアは、二重らせん構造のDNA分子を末端で結びつけ、ほぐれを防止して安定化させる働きを担っていますが、細胞が1回分裂するたびに切り取られて次第に短くなっていきます。そのため、テロメアは「分裂時計」あるいは「細胞分裂の回数券」などとも呼ばれています。
DNAの中央部にある大切な遺伝情報が切り取られないように、50回分の回数券を使い切ると、その細胞は分裂を止める仕組みになっています。人間の「永遠に生きたい」という夢がかなわないのはこのためです。回数券を使い果たすと、あとは老化と死を待つほかないのです。
(画像:INDEPENDENT)
テロメアを再生する酵素「テロメラーゼ」
がんを克服し、長寿も可能に?
テロメアが短くなると細胞老化が起きるのであれば、逆にテロメアを修復して長くしてやれば、細胞分裂を継続させて長寿命が得られるかもしれません。
実際、がん細胞ではテロメアを生成する「テロメラーゼ」という酵素が活性化されていて、がん細胞は永久に細胞分裂を続けます。
ヒトの体細胞には残念ながらテロメラーゼ活性はありませんが、何らかの方法で活性を高めてやれば、細胞分裂の回数を多くしてヒトの寿命を延ばすことが期待されています。
このことは実験室レベルではすでに確認されていて、1997年にアメリカで行われた実験では、テロメラーゼを与えられた細胞が、老化したテロメアを修復・再生することが観察されました。その後、さらに細胞分裂を続けてもテロメアは短縮せず、細胞は不死に近い状態になることも確認されています。老化と寿命を制御する注目の研究成果です。
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