造血幹細胞移植のはなし
血液型は変えられる?
造血幹細胞移植で血液型が変わる?
血液型は生まれもってのものであり、一生変わらないと思っている人も多いはずです。だがときに、血液型が途中から変わることもあるのです。
とはいえ、A型の人が、何のきっかけもなしにある日突然B型になってしまうわけでは勿論ありません。血液型が変わるのは、骨髄の移植手術を受けたときです。
骨髄移植は、白血病や再生不良性貧血などの血液の病気を治療する方法の一つとして実施されます。ドナーの骨髄から正常な骨髄液(造血幹細胞)を採取して、これを患者の静脈から注入します。すると、移植された造血幹細胞が患者の骨髄に生着して、新しい正常な血液を作り始めます。
このとき、血液型が変化する可能性があるというのです。
骨髄移植では、患者とドナーの血液型を厳しく適合させるはずですが、実際問題、血液型が違っていてもいいのでしょうか? もう少し詳しく観ていくことにしましょう。
(画像:wikipedia)
骨髄のはたらき
血液を作る重要な組織
骨髄は固い骨の内側にあるゼリー状の組織で、血液を作る役割を担っています。赤血球、白血球、血小板などの血球はここで造られ、血管を通じて全身に送り出されます。
骨髄のおもな成分である骨髄液には造血幹細胞があって、これが分裂・増殖する過程で赤血球や白血球、血小板に分化していくのです。
この分化がうまくいかずに、白血球が無制限に増加し続けるのが「白血病」、赤血球・白血球・血小板ともに減少するのが「再生不良性貧血」という病気です。いずれも完治するのがむずかしい難病です。
このような血液の病気を治療するために行われるのが「骨髄移植」なのです。
骨髄移植(造血幹細胞移植)
個体の臓器移植と違って点滴注射で移植します
骨髄移植は、ドナーとなる健康な人の骨髄から骨髄液(造血幹細胞)をとり出して、患者に移植する方法です。骨髄液はドナーの腸骨から注射器で採取します。腸骨というのは骨盤の骨の一部です。
採取した骨髄液は、通常の輸血と同じように患者の静脈に点滴注射します。輸注時間は2〜4時間くらいです。
なお、造血幹細胞は基本的には骨髄に存在しますが、G-CSFという造血因子を投与したときなどの特殊な状況では、造血幹細胞が骨髄から全身の血液中に流れ出すことがあります。これを末梢血幹細胞と呼んでいます。また、赤ちゃんとお母さんを結ぶ臍帯血(へその緒の血液)にも造血幹細胞が存在します。近年、末梢血幹細胞移植や臍帯血移植も行われるようになりました。
適合させるのは白血球の血液型(HLA)
骨髄移植で重要なのはHLA(ヒト白血球抗原)という組織結合抗原です。白血球の血液型とも呼ばれています。
赤血球にはA型、B型、AB型、O型などの血液型があり、輸血の際には血液型を一致させないといけません。同様に白血球をはじめとする全身の細胞にはHLAの型があり、臓器移植の際には特にこのHLAの型を一致させることが重要になります。患者とドナーのHLAが一致しないと、移植したときに強い拒絶反応が出るためです。
HLAには多くの種類がありますが、造血幹細胞移植では特にHLA-A、HLA-B、HLA-DRの3種類が重要です。A、B、DRのそれぞれに2個の型があるので、造血幹細胞移植の患者とドナーのあいだでは、原則的には6個の型を適合させる必要があります。
赤血球の血液型は一致しなくてもいい
移植後に血液型が変わることも
HLAの型の種類は非常に多く、適合するドナーを見つけるのは大変な困難を伴います。ただし、HLAさえ適合すれば、ABO型を決める赤血球の血液型が一致する必要はありません。
かくして、骨髄移植後に血液型が変わるという驚きの事態が発生し得ることになります。私たちが普段血液型というと、ABO型の血液型を指します。
ABO式血液型が異なるドナーから骨髄移植を受けた場合、移植された造血幹細胞が血液を造り出すようになると、最終的にはドナーと同じABO式血液型になります。また、血液細胞の染色体やDNAもドナー由来のものに変わってしまいます。造血幹細胞を移植したのですから、いわば当然ともいえましょう。
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