ドラッグデリバリーシステムDDS
「必要なときに、必要な量を、必要な部位に」薬を届けるシステム
ドラッグデリバリーシステムDDSは
「薬の宅配便」に例えられます
通常、薬物は体内で吸収・分解され、患部以外の部位にも広範囲に拡散します。そのため実際に患部にたどり着いて効き目を発揮するのは、投薬量の1/100~1/10,000程度だといわれています。薬の大部分が無駄にされているのです。そればかりか、薬効を上げるために投薬量を増やすと、今度は副作用が問題になってきます。
薬の持つこのような欠点を改善する技術が、ドラッグデリバリーシステムDDSです。
薬物投与の理想形は、「必要なときに、必要な量を、必要な部位に」到達させるというもの。これらの条件を達成できる有効な手段としてDDSが注目されています。
DDSとは、目標とする患部に薬物を効果的かつ集中的に送り込む技術です。薬剤を膜などで包んで途中で吸収・分解されることなく患部に到達させ、患部で薬剤を放出して治療効果を高めるのが狙いです。
DDSによると、薬の効用を高める一方で薬の量や投与回数を減らすことができ、副作用の軽減も図れます。これまで治癒が困難とされてきた様々な疾病への適用も期待される、究極の創薬システムです。
(画像:長崎大学薬学部)
DDSを支えるナノテクノロジー
分子ロボットが活躍する極小のナノの世界
マイクロカプセルに薬剤を入れて、胃で溶けないようにして腸まで運ぶといったDDS技術は従来からありました。ただ、現在注目されているDDSはこのような単純なシステムではなく、細胞よりもはるかに小さい分子レベルで物質を自在に操作する技術です。ナノテクノロジーと呼ばれます(ナノはメートルの10億分の1)。
ナノテクノロジーの技術を使って、DNAやタンパク質などからなる分子ロボット(ナノマシン)をつくり、このロボットに薬剤を運ばせようとするものです。分子ロボットには感覚と知能が備わっていて、自分で勝手に目標となる病変細胞を捜し、細胞内部に侵入して薬を放出します。まさに究極のDDS、ドラッグデリバリーシステムです。
研究の最前線はどんな状況にあるのでしょうか。次節でその一例をみてみましょう。
東京大学での研究事例
すでに完成域にあるDDS
2013年6月、東京大学の相田卓三教授らの研究チームは、生体内の「アデノシン三リン酸(ATP)」の量を診断し、細胞内でのみ選択的に薬剤を放出できるナノチューブ型分子ロボットの開発に成功したと発表しました。
分子ロボットによるDDSのイメージ
ナノチューブには筒状のタンパク質複合体「シャペロニン」を使います。このシャペロニンに薬剤を内包させ、細胞に取り込まれたことが認識されるとシャペロニンが自動的に開裂して薬剤を放出します。
ATPはシャペロニンに作用して機械的にチューブ構造を壊す働きがあります。また、ATPの濃度は細胞内では高く、細胞外では低くなっています。そのため、ATPの量を検知することで、細胞外では薬剤を放出せずに、細胞内でのみ選択的に薬剤を放出することが可能になりました。
ここまでくればもう、立派な人工知能をもった分子ロボットの完成です。
(画像:マイナビニュース)
癌治療にも有望。ナノチューブ型分子ロボットによるDDS
ナノチューブはさらに、癌などの腫瘍細胞に取り込まれやすいという利点も報告されています。
腫瘍細胞では新生血管の隙間が大きいため、通常の血管では通過できないような「チューブ状の異方的な構造体」でも通過できるためです。
今回の相田教授らの実験でも、ナノチューブ型分子ロボットをマウスに投与すると、がん細胞に多く取り込まれることが確認されています。癌を治療するDDSとしてこれらの分子ロボットが有効であることを示しています。
DDSの中心技術
ターゲッティングと放出制御
DDSでは、疾患の病変部位へ集中的に薬物を到達させる技術(ターゲッティング)と、製剤からの薬物放出をコントロールする技術(放出制御)がとりわけ重要です。
上述した東京大学の事例はその一つですが、ほかにも各種のアイデアが実践されています。
たとえば、ターゲッティングでは、粒子径や親水性などの物理化学的性質を利用したり、分子ロボットのDNAにプログラミングするなどの方法が研究されています。また放出制御においては、薬物を包む高分子膜の薬物透過性をコントロールしたり、カプセルに光や刺激を加えることで結合した薬を切り離す方法などがあります。
いずれの方法もすでにプロトタイプの域に達したものばかりであり、医療現場でDDSが活躍する日も、もうすぐそこまで来ています。
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