癌(がん=悪性腫瘍)とは何か?
なぜ人体に必要ない癌が生まれるのか
大腸がん(結腸がん)の病理写真
がん細胞は私たちのからだの中で毎日数百~数千個が生まれています。しかし同時に、からだの免疫力で癌細胞をやっつけています。
癌を作り出すのは、誰もが持っている自分自身の細胞なのです。
私たちのからだは約60兆個の細胞からなり、正常な細胞が分裂・増殖を繰り返すことで健康を維持しています。しかし分裂時、DNAのコピーにわずかなミスが生じるだけで正常なはずの細胞に傷がつきます。その結果として、がん化に関連する遺伝子に変化が生じると、突如として癌細胞に変異します。
なぜ、人のからだに必要ない癌が生まれてくるのでしょうか? そもそも癌とはいったい何なのでしょうか? 詳しく観てみましょう。
(画像:病理コア画像/日本病理学会)
悪性腫瘍のいろいろ
悪性腫瘍とは
腫瘍とは、からだの細胞の一部が勝手に増殖を始めかたまりとなったもので、「腫れもの」という意味です。腫瘍には良性なものもありますが、なかには細胞が無制限に増殖して周囲の正常な細胞を破壊し、いろいろな部位に転移して生命に危険を及ぼす悪性な腫瘍があります。
この悪性な腫瘍を「悪性腫瘍」といい、癌(がん)がその代表です。
がん腫と肉腫
悪性腫瘍は、発生する細胞の種類によって、癌腫(ふつう、略して癌という)と肉腫とに分けられます。頻度は圧倒的に癌腫(癌)が多く、悪性腫瘍の90%以上を占めます。
このことから、癌腫(癌)は悪性腫瘍の代名詞として使用されることが多く、一般的には癌腫と肉腫とを併せて、悪性腫瘍のすべてを「癌=がん」と呼んでいます。
■癌腫
皮膚、粘膜、いろいろな臓器の表面に近い部分を構成している上皮細胞という細胞から発生する悪性腫瘍です。皮膚癌・食道癌・胃癌・大腸癌・肺癌・肝癌・前立腺癌・子宮癌・乳癌など身体のあらゆる部分に発生します。
■肉腫
上皮細胞以外(非上皮)の細胞に発生する悪性腫瘍です。筋肉の細胞に発生する筋肉腫、骨の細胞に発生する骨肉腫などがあります。
また、リンパ球に発生する悪性リンパ腫や血液を作る骨髄細胞に発生する白血病なども、上皮細胞以外の細胞に発生する悪性腫瘍ですから肉腫の一種です。これらはまとめて「血液の癌」とも呼ばれています。
がん発生のメカニズム
癌は遺伝子の病気です
近年、がん発生のメカニズムに関する研究が進み、遺伝子の異常が癌の発生に深く関与していることがわかってきました。
細胞の遺伝子には、がん発生に関与する「癌遺伝子」と癌の発生を抑制する「癌抑制遺伝子」とがあり、正常な細胞を癌細胞に変化させるのは、癌遺伝子の活性化と癌抑制遺伝子の欠損であることが認められています。
癌遺伝子というのは、本来は癌を発生させるための遺伝子ではなく、細胞が増殖・分化していく際に働く大切な遺伝子です。ところが何らかの環境要因(発癌物質・放射線照射など)によって遺伝子に傷がつくと、がん遺伝子に変身すると考えられています。
通常は傷つき変身したがん細胞は、癌抑制遺伝子の作用で修復または排除されるのですが、この癌抑制遺伝子が欠損していたり、傷ついて働かなくなると、細胞ががん化するのを止められず、癌の発生につながります。
癌を発生させる環境要因
癌を発生させる要因として、次のような環境要因が考えられています。動物実験でも、これらの環境要因によって癌が発生することが確かめられています。
- 発がん物質:PM2.5などの大気汚染物質や排気ガス、カビ毒、食品添加物、タバコの煙(ニコチン)など
- ウイルス感染:肝癌や上咽頭癌など一部の癌ではウイルス感染が発癌にかかわっています
- 放射線照射:エックス線、ガンマ線、原発事故による放射線の被ばくなど
- 紫外線:皮膚がんの原因になります
癌の進行とステージ(病期分類)
癌は一般に、早期がん、進行がん、末期がんの三段階に大別されます。これらの癌の進行度は、実際には、癌がどのくらいの大きさになっているか、周辺のリンパ節にどれほど転移しているか、遠隔臓器への転移はあるか、の3つの要素で決められます。
TNM分類
国際的な規約としてよく使われている癌の進行度分類です。
- 原発腫瘍(T):T0(癌はできたもののまだ腫瘍なし)、T1~T4(癌の大きさ・浸潤の程度により各臓器別に分類)
- リンパ節移転(N):N0(リンパ節転移なし)、N1~N4(リンパ節転移の程度により各臓器別に分類)
- 遠隔移転(M):M0(遠隔転移なし)、M1(遠隔転移あり)
ステージ分類
TNM分類をもとに、癌の進行度と広がりの程度を一度に表わすことができるように作られたのがステージ分類です。TNM分類と同様に臓器別に細かく分類されています。例えば子宮頸癌のステージ分類は次のようです。
- ステージ0(0期):癌細胞が上皮内にとどまるもの
- ステージⅠ(Ⅰ期):癌細胞が上皮の基底膜を超えるが子宮頚部に限局しているもの。そのうち浸潤の深さが5mm以内で病変の広がりが7mm以内のもの(Ⅰa期)またはこれを超えるもの(Ⅰb期)
- ステージⅡ(Ⅱ期):子宮頚部をこえて浸潤があるが膣壁の下1/3には達していないもの。そのうち子宮傍組織浸潤は認められないもの(Ⅱa期)または子宮傍組織浸潤の認められるもの(Ⅱb期)
- ステージⅢ(Ⅲ期):膣壁の下1/3を超えて浸潤があるが、骨盤壁まで達していないもの(Ⅲa期)または骨盤壁まで達しているもの(Ⅲb期)
- ステージⅣ(Ⅳ期):膀胱や直腸の粘膜まで浸潤しているもの(Ⅳa期)または小骨盤腔を超えて広がるもの(Ⅳb期)
癌の予防
からだの免疫力を高めることが一番のがん予防法
国立がんセンターでは、「がんを防ぐための12か条」を提唱して、日常生活でのがん予防を呼びかけています。また、これに倣って、世界がん研究基金や日本対がん協会、厚生労働省などでも同様の指針を掲げています。読んだ方も多いはずです。
「バランスのとれた食事をする。タバコは吸わない。食塩をとりすぎない。適度な運動をする。などなど・・・」
要は、適度な運動をしながら食生活にも配慮して、健康な生活を送るということです。これらは生活習慣病の予防法と大変よく似ています。それもそのはず、癌も生活習慣病のひとつだからです。
ここにはストレスという言葉は出てきませんが、ストレスは免疫力を低下させる要因です。適度な運動がストレスを発散させ、免疫力を高めて健康なからだを維持するために大変効果的です。
免疫の高い健康な人の細胞では、がん抑制遺伝子も活発に働きます。がん化に導く遺伝子の異常を見つけてこれを修復したり、修復できない場合はアポトーシスといって、細胞を死なせて癌細胞が増殖するのを未然に防ぐ機能も備わっています。
癌細胞が大きく育つ前に、ほとんどの場合はこれらを破壊して、わたしたちのからだを癌から守ってくれると考えられています。
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