抗がんウイルス製剤・テロメライシン
大腸がん(結腸がん)の病理写真
癌(がん)は、通常の手術や抗がん剤による治療では、患者の心身に苦痛とリスクを負わせます。ところが現在、注射1本で癌を抑えられるという夢のような治療法が誕生しようとしています。
注射器で癌の病巣に新薬を注入すれば、癌細胞がどんどん縮小して、やがてなくなってしまうという画期的な方法です。
新しい癌の治療薬は、腫瘍融解ウイルス製剤「テロメライシン」といいます。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の藤原俊義教授が開発しました。
テロメライシンが投与されると癌細胞は破壊されます。しかもほかの健全な細胞はまったく影響を受けません。癌細胞だけを選別して破壊するテロメライシンとはどのような新薬なのでしょうか。
(画像:病理コア画像/日本病理学会)
テロメライシンの開発
風邪ウイルスの遺伝子を改変
テロメライシンの正体は、風邪の原因ウイルスのひとつであるアデノウイルスの遺伝子を改変して「癌細胞の中だけで増殖し癌細胞を破壊する」ように作られたウイルス製剤です。抗がんウイルス製剤とも腫瘍融解ウイルス製剤ともいわれます。
藤原教授は2001年から研究を開始しました。マウスの癌病巣に注射でテロメライシンを直接注入すると、ウイルスが癌細胞内で急速に増殖。3日間で100万倍以上に増え、癌細胞を攻撃して次々に破壊していきました。
さらにその後に実験で、テロメライシンは癌細胞以外には影響を及ぼさないことも確認されました。従来の抗がん剤や放射線治療では回避できなかった副作用の問題もなくなります。
ヒトへの投与は2006年にアメリカの大学病院で初めて行われました。患者の安全を考え、テロメライシンは必要量の100分の1しか投与しませんでしたが、それでも「癌の成長が止まった」、「癌細胞の割合が減少した」などの驚くべき結果が得られました。
テロメライシンの臨床試験の現状
食道癌に対する臨床研究
ヒトに対する臨床試験は日本でもすでに開始されています。
2013年11月、岡山大学病院において、世界初となる食道癌に対するテロメライシンを用いた放射線併用ウイルス療法の臨床研究が開始されました。
患者は80歳代の女性で、高齢のため手術は難しく、軽度腎機能障害があるために通常の抗がん剤治療も困難でした。そのため局所麻酔下で、内視鏡を用いて注射針で食道の癌患部にテロメライシンを1ml投与しました。処置自体は約15分で終了しています。
テロメライシンは癌細胞を攻撃して破壊するだけではなく、放射線で傷ついた癌細胞が「自らのDNAを修復する機能」を阻害することもできます。そのため放射線治療の感受性を格段に増強することができ、副作用を抑えた効果的な放射線治療を併用することも可能です。今回の治験でも、テロメライシンの投与と並行して、放射線治療もおこなわれています。
癌治療の未来
これら一連の臨床研究が順調に進んで、テロメライシンによるウイルス療法が実用化されれば、従来の癌治療法に代わる画期的な治療法が誕生します。注射だけで癌が治る時代が来るのです。
もう、癌病巣を手術で切除したり、苦しい抗がん剤を投与する必要はなくなります。
それがいつになるかは、今はわかりません。ただ近い将来、「昔は、癌を手術で治していたんだってね」といわれる時代が必ず来ます。早く実用化してもらいたいものです。
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