アポトーシスとはプログラムされた細胞死のこと。不要になった細胞や傷ついたりがん化した細胞を取り除いてくれる、生体維持のためになくてはならない素晴らしいシステムです。

 

アポトーシス 計画細胞死 プログラム細胞死

  

アポトーシス(プログラム細胞死)

アポトーシスとは

プログラムされた細胞死

アポトーシスとはプログラムされた細胞死のこと。胎児の手ができる過程では骨と骨との間の細胞がみずから死を選ぶことにより指が形づくられる。
胎児の手もアポトーシスによる細胞死で形成される

生体は生まれてから成長する過程で、不要になった細胞や害になった細胞を取り除く機構をもっています。
また、成長したあとも、生体を維持するうえで、老化した細胞やウイルスに感染したり、がん化した細胞を取り除く機構を備えています。

不要になった細胞を取り除く機構は、アポトーシス(プログラム細胞死)と呼ばれます。

たとえば、胎児の手ができる過程では、骨と骨との間の細胞がみずから死を選ぶことにより指が形づくられます。アポトーシスとはいわば計画細胞死、遺伝子にあらかじめプログラムされた細胞死なのです。

このアポトーシスは、細胞が分裂する過程で遺伝子に傷がついた場合などにも適用されます。傷ついた不要な細胞が「がん化」する前に取り除いて、私たちのからだを癌(がん)から守ってくれているのです。

なぜ生体は、からだに不要な細胞を識別できるのか? どんな方法で細胞に死を宣告して細胞死に導くのか?
「生のために必要な死」とは? 魅惑のアポトーシスの世界をのぞいてみましょう!

アポトーシスの仕組みを医学に応用することができれば、癌やエイズ、アルツハイマー病などの新しい治療法に道を拓くことができます。

(画像:桜映画社)

アポトーシス/生のために必要な死

生体を守る計画細胞死

アポトーシスとは枯葉が「落ちる」という意味
アポトーシスとは「枯葉が落ちる」という意味

アポトーシス (apoptosis)とは、枯れ葉などが木から「落ちる」という意味です。ギリシャ語の「apo-(離れて)」と「ptosis(下降)」に由来しています。
厳しい冬を生き抜くために、落葉樹は秋に葉を落とし、暖かい春が来るのをじっと待ちます。落葉は、春になって新たな芽を吹かせるための植物の知恵、細胞の命のリレーなのです。

多細胞動物も同様に、生体を健全な状態に維持するために、老化した細胞や遺伝子に傷がついた細胞、ウイルスに感染した細胞などを自ら殺すアポトーシスの機能が備わっています。

ではどうやって、傷ついたり変質した細胞を識別してアポトーシスするのでしょうか?

このアポトーシスには「カスパーゼ」と総称される一連のたんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)が中心的な役割を果たしています。
細胞は自分が厄介者になったら自殺(計画細胞死)するように遺伝的にプログラムされていて、アポトーシス誘導シグナルを発信してアポトーシスを誘発します。このシグナルによってカスパーゼが活性化され、シグナルを発信した特定の細胞のみを認識して分解するのです。

細胞の自殺には共通性がある

癌もエイズもアルツハイマーも基本は同じ

細胞がアポトーシスをおこす仕組みは、癌を未然に防ぐ細胞死も、からだが形成される過程でみられる細胞死も、エイズのような病気でみられる細胞死もすべて共通性があることがわかっています。

たとえば癌では、アポトーシス調整遺伝子のなかで「Bcl-xS」と呼ばれるタンパク質は、さまざまな種類の癌細胞を殺すことがわかっています。この仕組みを癌治療に応用すれば、各種の癌を撲滅できる画期的な治療法が開発できます。

エイズやアルツハイマー病も同様です。
エイズは、エイズウイルス(HIV)が免疫系細胞を殺すことで自らを増殖させる病気です。また、アルツハイマー病では脳の神経細胞がアポトーシスされることで、神経伝達ネットワークが切断され、記憶や運動・判断能力が障害されます。

アポトーシスは偶発的な死と異なり、いろいろな仕組みで制御されています。細胞の情報の根源は遺伝子です。遺伝子DNAには細胞の生死を決定する遺伝子があり、それによって厳密に調整されています。

したがって、アポトーシスの詳しい仕組みが解明されると、癌やエイズ、アルツハイマー病などといった難病を撲滅できる、新しい治療法や新薬の開発に道が拓かれます。いま注目の最前線の研究分野です。

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